ズボラなボクが辿り着いたロルバーンミニ

「またやってしまった・・・・・。」

 出先で挨拶を交わす瞬間、相手がスッと差し出した名刺を見て、冷や汗が背中を伝う感覚。社会人歴20年を超えてなお、ボクはこの「名刺入れを忘れる」という初歩的なミスを繰り返していた。

 正直に告白しよう。ボクは筋金入りの「ズボラ」だ。

 鞄を変えれば中身を移し忘れ、ポケットに入れたレシートは洗濯機の中で雪のように舞い散る。整理整頓は苦手だし、細かな管理などできれば一生やりたくない。

 けれど、そんなボクには、自分でも不思議な習性がある。それは、「EDC(Everyday Carry:日々持ち歩くモノ)」への異常なまでの執着だ 。

目次

 ズボラだからこそ、EDCに憧れる

 一見すると矛盾しているように見えるかもしれない。「ズボラな人間」と「こだわりの道具を持ち歩く人間」。しかし、ボクの中ではこの二つは密接にリンクしている。
 なぜなら、ズボラで忘れっぽく、突発的なトラブルに弱い自覚があるからこそ、道具に頼ることでその欠落を埋め合わせたいと切望しているからだ。

 EDCの核心にある哲学。

 それは「準備」と「自立」だ 。予測不能な事態が起きても、自分の手持ちの道具だけで涼しい顔をして切り抜けたい。そんな「強さ」への憧れが、ボクを機能的なアイテムへと駆り立てる。

 しかし、現実は非情だ。
 アルミのシンプルな名刺入れや、美しい革の名刺入れを買っても、それを「持ち歩く」こと自体を忘れてしまえば、何の意味もない。ボクの部屋に使われないまま今も眠っている。

「必要な時に、必要なモノが手元にない。」

 これがボクの人生につきまとう、呪いのような課題だった 。

名刺入れという「ボトルネック」

 特に深刻だったのが、冒頭の名刺入れ問題だ。
 名刺入れは「名刺交換」という特定の瞬間にしか出番がない。使用頻度が低い道具は、ズボラな人間の脳内リストから真っ先に脱落する。

「あ、名刺入れですか? 今日はちょうど切らしておりまして……」

 そんな言い訳を重ねるたび、ボクは自己嫌悪に陥る。それは単にマナーの問題ではない。「自分は、自分の人生をコントロールできていない」という無力感を突きつけられるからだ。

 さらに、この欠落は「メモ」にも波及していた。
 ふとした瞬間に浮かんだブログのネタ、仕事の改善案、あるいは街で見かけた美しいデザイン。それらを書き留めたいと思ったその瞬間に、ペンと紙がない。スマホを取り出してアプリを起動する数秒の間(ま)に、繊細なアイデアの泡は弾けて消えてしまう。

 名刺交換の機会を失う気まずさと、アイデアを逃す喪失感。この二つのストレスが、ボクの日常に澱(おり)のように溜まっていた 。

運命の出会い

 転機は、何気なくYouTubeを眺めていた夜に訪れた。画面の向こうで紹介されていたのは、手のひらにすっぽりと収まる小さなロルバーン。

「あ、これいいな。」

 そう思った次の瞬間、ボクの脳裏に苦い記憶がよぎった。実は以前、定番のMサイズを買ったことがあるのだ。張り切って買ったものの、ズボラなボクは結局それを持ち歩く習慣がつかず、真っ白なまま机の肥やしにしてしまった。

「また同じことになるんじゃないか?」

 そんな疑念が頭をかすめる。けれど、画面に映るその「ロルバーンミニ」には、なぜか目が釘付けになった。かつて挫折しMサイズよりも圧倒的に小さく、軽快に見える。

「これなら、今のボクでも使えるかもしれない。」

 直感に導かれるまま購入し、手元に届いたその小さなノート。何気なく裏表紙をめくった瞬間、ボクの脳内に電撃が走った。

 ロルバーンの代名詞とも言える、巻末のクリアポケット。そのサイズ感が、あまりにも絶妙だったのだ。

「これ、名刺が入るんじゃないか?」

 試してみると、1枚のクリアポケットに、名刺(91×55mm)が7、8枚収まった 。

 その瞬間、ボクの脳内でバラバラだったパズルが組み上がった。

「名刺入れ」という単機能の道具を持ち歩くから忘れるのだ。常に持ち歩く「メモ帳」に名刺入れの機能を統合してしまえばいい。
 ボクはすぐに、ロルバーンのリング部分にジャストフィットするクリップ付きのボールペンも探したのである 。

購入したボールペンは、PILOT「couleur(クルール)」

これで完成だ。

「メモ帳」と「ペン」と「名刺」が一体化した、ボクだけの最強のEDCが誕生したのだ 。

手のひらに収まる「要塞」

 このシステムを導入してからの変化は劇的だった。運用は至ってシンプルだ。
 後ろのクリアポケットには自分の名刺を数枚入れて、いただいた名刺も一時的にクリアポケットへ放り込める。これで、仕事の日でもプライベートでも、あるいは手ぶらでコンビニに行く時でさえ、ポケットにこれ一冊を突っ込んでおけばいい。

「あ、名刺入れですか? 実はこれメモ帳なんですよ。」

 不意の名刺交換の場面でも、慌てず騒がずポケットからロルバーンミニを取り出す。そこから生まれる会話は、かつての気まずい言い訳とは無縁の、単なる事務的な挨拶が、互いの「こだわり」を共有する楽しいひとときへと変わった 。

 これは単なる便利グッズの話ではない。EDCの哲学で言うところの「効率性」の最適化だ 。

 限られたポケットの容積の中で、複数の機能を一つのアイテムに集約する。それによって、持ち物を減らしながらも、対応できる状況の幅を広げる。
 ズボラなボクが求めていたのは、高価なブランド品ではなく、自分の弱さをカバーしてくれる、こうした賢い「仕組み」だったのだ。

 常にポケットにある、少し厚みのある硬い表紙の感触。それは、「いつでも書ける」「いつでも挨拶できる」という、物理的な安心感をボクに与えてくれた 。

「書き殴る」自由と、脳の拡張

 物理的な準備が整ったことで、ボクの思考プロセスにも変化が訪れた。
 以前のボクは、綺麗にノートを取ろうとして筆が止まることがあった。Mサイズを無駄にした時もそうだった。
 でも、この小さなロルバーンミニは違う。片手でガシッと掴めるサイズ感と、リングノートならではの折り返しやすさが、「汚くてもいいから、とにかく書け‼」と急かしてくる。

 走り書きのメモ、意味不明な図解、単なるキーワードの羅列。

 脳内にあるあやふやなイメージを、手書きという身体的な行為を通して紙に定着させる。
 最近の研究によると、紙への手書きは、電子機器への入力よりも脳の活動を高め、記憶の定着や創造的な発想を促すという 。実際、キーボードを叩くよりも、ペン先を紙に走らせている時の方が、思考が深く潜っていく感覚がある 。

 ボクは、このロルバーンミニを「思考の掃き溜め」として使うことに決めた。

 整理なんてしなくていい。とにかく、頭に浮かんだノイズを全てキャッチする。それが、ズボラ流の「丁寧な暮らし」の第一歩だった 。

Google Keep|アナログをデジタルへ昇華させる

 しかし、書きっぱなしでは情報は死蔵される。ここで登場するのが、現代のEDCに欠かせないデジタルの相棒、「Google Keep」だ 。

 ロルバーンのページがいっぱいになったら、ボクはスマホを取り出し、Google Keepのカメラ機能でページを撮影する。ただそれだけだ。

 だが、このアプリの真価はここから発揮される。Google KeepにはOCR(光学文字認識)機能が備わっている 。撮影した画像内の文字をAIが解析し、自動的にテキストデータとして抽出してくれるのだ。つまり、ボクの手書きが、後からキーワード検索可能なデジタルデータへと変換される。

「道具」とメモした画像。「道具」と検索すると、撮った画像を認識してくれる
パソコンも同様

 さらに、Google KeepはGoogleの仕事環境と深く統合されている 。

 職場のPCでGoogleドキュメントを開き、記事や企画書を書いている時、右側のサイドパネルを開けば、そこには昨日ロルバーンに書き殴ったメモが並んでいる。必要なメモをドラッグ&ドロップするだけで、それは正式なドキュメントの一部となる 。

  1. ロルバーンミニで、摩擦ゼロで「書き殴る」(キャプチャ
  2. Google Keepで、デジタル化して「保管する」(アーカイブ
  3. 仕事やブログで、知識として「活用する」(インテグレーション

 このサイクルが回り始めた時、ボクは震えるような興奮を覚えた。ゴミのように捨てられていた日々の断片的な思考が、デジタルの力を借りて、再利用可能な「資産」へと生まれ変わる。

弱さを認めて、道具と生きる

 ボクは相変わらずズボラだ。これからもきっと、傘をどこかに置き忘れるし、締め切り直前に慌てふためくだろう。性格なんて、そう簡単には変わらない。

 けれど、自分の弱さを認め、それを補ってくれる「愛すべき道具」を選ぶことはできる。

 ロルバーンミニとGoogle Keep。このアナログとデジタルの小さなコンビネーションは、ボクの「忘れる」という弱点を、「記録する」という強みへと反転させてくれた。

 モノを所有することではなく、モノを通じて得られる体験と、自分なりのプロセスを愛すること 。

 それが、ズボラなボクが辿り着いた、心地よい暮らしの答えだ。

 あなたのポケットには今、何が入っているだろうか?

 もし、日々の忘れ物や、指の隙間からこぼれ落ちていくアイデアに悩んでいるなら、一度立ち止まって、自分のためのEDCを見直してみてはどうだろう。そこにはきっと、あなたの弱さを支え、日々の探求を助けてくれる、頼もしい相棒との出会いが待っているはずだ。

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